EPO事例研究会報告

■報告

第3回 EPO事例研究会報告

 2010.9.25 枚方教育文化センター 参加者約70名
 「地域であたりまえに生きる-三十路を過ぎてからの強迫性障害(巻き込み型)」の報告
 助言者:
浜田 寿美男(奈良女子大学) 山田 義昭(共働舎花の会)

 

<事例報告概要>
「であい共生舎」の支援者2人(日野裕・中岡将基)から、Aさんのこれまでの成育過程の説明と、ワークショップ虹での授産作業とケアホーム生活の中身の報告があった。
―2歳になっても言葉が出ず、多動。出生地である他府県の小学校は特殊学級で普通学級との交流がないために、転居して枚方市内の小学校へ転入。中学3年時にてんかんの発作や攻撃的なパニックを起こす。養護学校高等部に入学してから精神安定剤を服用。現在は、ワークショップ虹の授産作業を行い、ケアホームを利用。― かなり小柄で痩せ型。食事は偏食、おやつや特定の物に強い執着、収集したがる。ホコリを取ることにこだわる。声かけに対してはほぼ理解、普段は極めて静か聞き取れないくらいの小声でオウム返しをする程度、活発に行動せず、作業をしてもすぐに寝てしまうことが多い。が、気になることや強迫観念が強いときは、急に走り出したり、強い力で暴れたりする。
2年前の春ごろ、電車内の座席のごみをとってきれいにしたいと訴え、パニック状態になる。大声で叫ぶ、飛び跳ねるなど、相当精神的に不安定な状態が続く。同年の秋には、両親の手に負えない状況が増え、緊急的に週末もケアホームを利用。年明けから更に悪化、起きている間は何かに執着し、大声で叫ぶ時間も長くなり、要望が通らないと噛み付く、髪を引っ張る、腰や背中、顔の上にまで立って登る。対応に行き詰った両親とともに「ワークショップ虹」に泊った土曜日、2Fのベランダを乗り越え、下の階に飛び降りる(奇跡的に無傷)。その数日後、夜通し暴れた結果、世話人の胸に激しく噛み付き、本人も足の付け根を骨折してしまう。枚方市内の病院の普通病棟に入院約1ヶ月、家族とワークショップ虹のスタッフ交代で24時間常駐し付き添う。入院時も退院後も本人の精神状態は日増しに悪くなった。
向精神薬の再調整が必要だと、京都の病院へ本人の受診に行く。職員2名同行しての通院を開始して数回で向精神薬が変更され、劇的に効果が現れ、大声で暴れたりすることが大幅に減り始める。医師はこの1年に起きた本人の変化を、自立の一過程…親離れの時期であるとし、当面の間は、本人を刺激し、強い強迫を生む要素の多い自宅での生活から、ワークショップ虹やケアホームでの生活に主軸を移すべきであると提言。同時に両親もこれまでとちがい、共生舎のスタッフの一員のような感覚で、統一の意思のもとで本人と接することが大事とのアドバイスを受けた。

<社会福祉法人であい共生舎:津田 茂樹>
2人の報告者と津田さん(理事長)から:昨年9月25日(土)、共生舎全職員研修会を行いました。職員はもちろん、パート職員、嘱託職員等々、若者達との係わりをもつ者全員参加が基本のいつもの研修会です。 今回は、身内だけではなく、EPO北摂事例研究会にのっかる形で、共働舎花の会(高槻)と共同して、であい共生舎の取り組みを外部へ発信することになりました。成功事例?ではなく、壁にぶつかりながらの模索途上、現在進行形の事柄だけに外部への発信は躊躇するところだったのですが、該当事例の親御さんの「職員の人たちのためになるなら・・」とのあたたかい了解をいただきました。 ワークショップ虹で「職員自身が問い直される、試されている」といっても過言で無い困難に困難を極めている事例をさらけ出し、「支援と関係性」について見つめ直すきっかけにしなければならないという切羽詰ったなかでの事例研、発表するのは日野裕さん、中岡将基さんの若い二人。 助言者は浜田寿美男(前奈良女子大学教授)さん、山田義昭(花の会)さん、本音しか通じないEPO関係者とEPO研究会の常連さん、そして共働舎花の会(高槻)の人たち、この面々なら当然すんなりお開きにならないことを期待しながら、私も発表する若い二人の中に入り、そして始まりました。 事例の発表が終わり、質疑応答になると、やはり期待していたとおりEPO研ならではの真摯な意見、直球質問が相次ぎました。無認可の作業所時代から専門性を否定?して約30年。しかし今回の件ではドクター(精神科)との連携、診断名を表に出しての取り組みだけに否定とばかりにはいかない。もどかしさを感じながら返答しました。 対して山田義昭さんの「地域で生きることを否定しないで援助してくれる専門の方とは連携すべし」の助言にホッとし、また、浜田寿美男さんの「親離れの時期、親と一緒に生きている時代は中学ぐらいまで。自分の世界を持つ時期だ。言葉で自分の思いを語れなかったのでは? 親も指示や命令としてしか言葉を使っていなかったのではないか。支援者は共感的な言葉を出してみて下さい。」との助言に思い当たるところが多く、先が見えてきそうな感じを受けました。それとともに、「地域で生きる」ことの大切さを共有している多くの仲間が一緒になって、一つの事例に真摯に立ち向かってもらったことに、今回、やはり発信して良かったと・・。 最後に浜田寿美男さんから、「事例研究は失敗例がよりいい。何をどう考えればいいか。この人がどんな世界を生きてるんだろうと考えてもらえればいい。成功事例が多い中、今回の発題はまだまだ中間事例、それだけに今後に繋ぐ良い事例研究会に・・・」と温かい言葉をいただきました。共生舎の 取り組みが表に出たということ、みんなで、今後を示さなければとの思いを強くしました。 今回の事例研を通して、共生舎はあくまで地域に拘り、支援学校ではなく「校区の子は校区へ」、そして入所施設やケアホームが終の棲家にならないよう、その人に合った自立生活、地域生活を形にしていかなければという思いを強くしました。参加者の皆さん、本当にありがとうございました。(つだしげき)   

*参加者論議の一部:Aさん自身の本来の姿はどうなんだろう。改善しているのか、もうちょっとサポートして行ったら?/ 「こだわり、要求」は関係の中で作られてきてしまっている。共感性という人と人とのつながりをどう感じられるか。信頼関係がないと支援はあかん。/ 彼は地域に出て行けるのか? ショートステイはいけるのか、「おいしい」の意味は理解できるのか?/ 当時の枚方の教育では一人の人として認められていた。/ 私は、彼が小学4年生のときの担任でしたが、おとなしい子でした。ひらがなは全部かけていた。クラスの子が色々かかわってくれていたので、私は何もしてないです。/ 彼の今までの生きてきた歴史を知りたい。そこから、彼は本来、どういうふうに生きたいのか、本人の意志はどこまで組み立てるのか、仲間同士の関係は?が見えてくるのではないか /仲間同士の関係は、ほとんどお互いに干渉がなかった。暴れているとき、彼は他の人(当事者)には近寄らなかった、職員には向かっていったが。

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